都市OSとは
都市OSとは、スーパーシティによって実現する物流、医療、福祉、防災など様々な新しいサービスを提供するための基盤です。基盤と言ってもイメージしづらいですが、例えば、iPhoneはiOSというOSで作られており、決まったプログラミング言語でアプリを作られ、Apple Storeで様々なアプリをダウンロードすることができます。また、アプリをダウンロードしなくても誰もが使う、電話やメール、カレンダーといった機能はiPhoneを購入した時点でインストールされています。
iPhoneはみなさんの手の中ですが、都市OSは都市レベルで標準機能やあとから新しいアプリを追加することができるようにするという構想です。
都市OSは従来の自治体の課題を解決する?
都市OSは、各地方自治体が利用するものですが、従来の自治体の課題を解決する期待があります。自治体ではこれまで、問い合わせの処理などの対応をシステムで行っていましたが、各企業に個別に作ってもらった自治体独自のシステムを使っていました。
当然、他の自治体では同じように使うことはできません。データの形式も違うし、操作方法も違う。自治体間で違いがあるとやり取りは面倒で自治体同士で横のつながりが全くありませんでした。
また、新しく何か機能を入れたり、令和という元号一つ増えるだけでシステムを作った企業に少なくない金額を払い修正するといったことを繰り返していたため、最低限の機能でずっと使い続けてきました。
つまり、以下のような課題がありました。
- 自治体同士でのデータの利活用ができない
- A自治体で導入したシステムをB自治体では利用できないため、新しく作る必要がある
- 新しく機能を開発しようとしても、作った会社に頼まないといけない
とにかく、「古い」「使いづらい」というのが自治体のシステムであり、都市OSが解決していく課題です。
メリット
都市OSが使われることで何がよくなるのかというと1つに「サービス提供スピード」が向上することが期待されます。A自治体で使っているシステムをB自治体でもということが数日、数週間で利用することも理論的には可能です。
防災など自治体連携が必要なサービスにおいて大きな効果を発揮するため、「サービスの質」が向上することも期待されます。防災であれば、避難時の避難勧告の精度が高まり、結果的に多くの人を救うことにもつながります。
デメリット
デメリットの部分はなんと言っても、データの部分です。都市OSでは自分が住んでいる自治体を超えて利用することが大前提になるため、データの利活用によるプライバシー問題が発生します。もちろん、自治体や企業含め、プライバシー問題にとても配慮しており、個人が特定できないように扱っています。
しかし、どこでどういった風に扱われるかわからなかったり、漏洩のリスクがゼロではないため、不安視するのも当然かと思います。
日本の都市OSの設計
7つの日本式スマートシティにおける都市OS設計
- 利用者を管理するためのアーキテクチャ要素として、ユーザ ID の管理及び認証・認可を担う認証を定義。
- デバイスは、Society 5.0 の考え方ではアセットとして括られるためその管理のためのアセットマネジメントを定義。
- アセットからのデータ送受信には、新旧の様々なテクノロジーの活用や分野間連携が求められるため、外部データ連携を定義。
- サービスについては、サービス自体の管理とともに、サービス利用履歴を記録する要素としてサービスマネジメントを定義。
- サービスと都市 OS の API 接続を担保するためにサービス連携を定義。
- 認証・アセットマネジメント・外部データ連携・サービスマネジメント・サービス連携の5要素から生まれる、サービス利用履歴含む全てのデータを保持するデータマネジメントを定義。
- この六つのアーキテクチャ要素に加えて、通常のシステム運用で必須となる、運用とセキュリティを定義。
課題と対策
日本都市OSの今後の設計の前に現在の課題と対策を見ていきます。
- サービスの再利用性がない
- 分野間のデータが分断
- 拡張性が低い
- 相互運用
- データ連携
- 拡張性の追加
課題に対する3つの対策
相互運用によるサービスの再利用性と横展開
これまでの自治体サービスは、システムが自治体ごとに異なっているため、APIやデータの連携が非常に困難でした。
相互運用とは、都市OSごとのAPIやデータの形式が同じであったり、機械的に変換可能な状態を指します。
相互運用可能な状態にしておくことで、単一都市だけではなく複数都市間でデータのやり取りが可能になります。
データ連携
スーパーシティ、スマートシティにおいて非常に多くのデータが蓄積されます。各個人がウェラブルデバイスをつけることで取得できるパーソナルデータや都市を3D化した地理空間データ、これまでの人口変動などの静的データ、人の動きなどのリアルタイムな動的データ。
素材が違えば、調理方法が変わるように、各データの特徴に合わせて最適な処理をする必要があります。データ仲介(Broker)を用意し共通的な処理を施し、別システムに連携しやすい形を作るようです。
拡張性の追加
これまでのシステムはベンダー依存になっていたので、そのベンダーが機能開発をする必要がありました。すべてをベンダーに依頼するのではなく、何個かの層に分け機能を提供することで特定のベンダーに依存シない形を構築します。
海外における都市OSの事例
EU(欧州連合)発の都市OS FIWARE(ファイウェア)
FIWARE:FI(Future Internet)WARE(次世代インターネット基盤ソフトウェア)の略です。官民連携プログラム(FI-PPP)で開発・実装された基盤ソフトウェアで、欧州を中心とした多数の都市や企業でスマートシティを実現するシステムに活用されています。
中国杭州はアリババクラウドのET City Brain
中国の杭州ではアリババのクラウドを元に都市OSを構築しています。都市OSの名前は、ET City Brainです。事故や渋滞情報、公共交通機関の情報、医療プラットフォームがアリババクラウド上で実現されています。
日本における都市OSの事例
高松市ではFIWAREを導入
高松市では、EUで開発されたFIWAREを導入しています。導入を推進したのはNECです。2011年当時、NECはFIWAREの開発に日本で唯一参加していました。すでにレンタルサイクルや防災における水位情報の確認などが実装されており、今後も活用が進んでいきそうです。
海外製都市OSの比較
都市OS名 | 概要 |
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Synchronicity FrameWork シンクロニシティ | 欧州で開発され、スイスと大韓民国が共同出資しているIoTプラットフォームです。 イングランドのマンチェスター、アイルランドのダブリン、フランスのボルドー、韓国の城南に導入されています。 |
FIWARE ファイウェア | 欧州で開発されたオープンソースの都市OS。 |
X-Road | 電子国家として知られるエストニアで開発され、導入され、注目を浴びた。フィンランドとエストニア間の国境を越えたデータ連携が可能な機密性や相互運用性が確保できるソフトウェア。 |
IndiaStack インディアスタック | 個人識別番号制度Aadhaar(アドハー)をベースとして機能を搭載しているインドのデジタル化を推進する仕組み。 |
まとめ
今後、日本において都市OSの導入がどんどん進んでいきますが、本来であれば日本全体で一つのOSにすることが望ましいです。今だと、都道府県のレベルでは一つの都市OSになりそうですが、県を跨ぐにはこれまでの自治体と同じように各システム会社で仕様が違うということが起こり兼ねないような気がします。
一応、政府も危惧をしており、一定のルールを作っていますが、自治体都合や企業都合によって捻じ曲げられる部分も少なからずあると思います。2021年9月に新設されるデジタル庁が率先して都市OSと国OSに昇華していってほしいものです。