ウェアラブル端末は、センサーの宝庫
スーパーシティ構想のテーマの一つに「ヘルスケア」があります。日本は超高齢化社会になっており、介護や医療費負担が重い国の一つです。ヘルスケア分野においての先進技術としてウェアラブル端末による健康状態の把握があります。
現在発売されているウェアラブル端末は無数にあります。時計にはじまり、指輪、ゴーグル、衣類など様々なタイプのウェアラブル端末があります。用途によってどのようなタイプのものを選ぶかが変わってきます。
ウェアラブル端末には複数なセンサーがついており、様々な数値を計測できます。
PPGセンサー(光学式心拍センサー)
PPGとは「光電式容積脈波記録法」(Photoplethysmography)のことです。血管内に巡る血流の体積変化を光で読み取る方式であり、LEDライトを皮膚に照射して、反射した光の変化を計り心拍数の計測値に変換します。「血液が赤いのは、赤色の光を反射して緑色の光を吸収するからである」という非常にシンプルな事実に基づいて、Apple Watch等では、赤い光と緑の光を用いて心拍数を計測する仕組みになっています。
心拍数を計測する際に、赤血球によって吸収される光が光検出器によって測定されます。心拍が生じると、血液の量の変化に伴って受光量が変動します。多くの動脈血が流れる指や耳たぶで測定を行う場合には、最も高い精度を得ることができる赤色光源または赤外光源を使用します。しかし、動脈は手首の上にはほとんど流れていません。そのため、手首に装着するタイプの機器では、緑色光を使用し、皮膚表面のすぐ下にある静脈と毛細血管を監視して拍動の成分を検出する必要があります。
ECGセンサー(心電図測定センサー)
心電図測定とは、心臓の鼓動を測る検査です。ECGセンサーでは心臓の収縮によって生じる電気信号を読み取ります。心電図測定は一般的には病院などで体の数箇所に電極パッドを付け、心臓から発生する微弱な電気パルスを捉えて測定しますが、ウェアラブルデバイスに備わっている機能はこれの簡易版です。
加速度センサー
加速度センサーは速度の変化を計測することができます。ランニングをしているときのペースを算出などに利用されています。
ジャイロセンサー
ジャイロセンサーは、別名「角速度センサー」と呼ばれ、角速度を検出するデバイスです(角速度とは、単位時間あたりの回転角のことを言います)。ジャイロセンサーは回転していることを検知すること、向きの変化を検知することができます。一言でいうと、傾きを計測するセンサーということになります。ウェアラブルデバイスでは、スポーツ時の動作を捕捉して、運動量の計測に使われることが多いです。
アイトラッカー
アイトラッカーは人間が「どこを・どのように・いつ見るか」を捕捉するための技術です。アイトラッカーにはいくつかの手法がありますが、眼球に直接接触しないアイトラッカーとしては「角膜反射法」(PCCR)が用いられます。
角膜反射法では角膜上に光の反射点を生じさせ、その画像をカメラで撮影します。撮影された眼球の画像から、角膜上の光の反射点と瞳孔を識別します。光の反射点やその他の幾何学的特徴を基に眼球の方向が算出されます。
アイトラッカーは主にゴーグルタイプのウェアラブル機器に使用されており、注目対象の把握や集中力の計測などに利用されます。
GPS(Global Positioning System)
アメリカが運用する「全地球測位システム」です。高度約2万kmで地球の周りを回る24個の人工衛星を使って、誤差数m~数十mで位置を測定します。3個の衛星が同時に発射した電波をGPS機能を内蔵したスマホやカーナビなどの端末が受信するまでの時間を測り、各衛星との距離を計算します。
ウェアラブル機器では、どこにいるのか、どこからどこまで移動しているのかという位置情報の取得に利用されています。
心電図とは
心電図とは、心電図とは心臓の筋肉の電気的な動きの様子を記録したものを言います。心臓の筋肉に異常がないか、脈の乱れがないかなどを調べるときに心電図の検査を行います。
Apple Watchの心電図の仕組み
Apple Watchの心電図は、厳密には心電図ではありません。心電図と似た図を生成にしているに過ぎません。しかし、Apple Watchでの心電図と標準的な心電図に高い一致が見られるということです。病院などで用いられる心電図測定には専用の機器が使用され、電極を腕、足、胸部に付けて多角度で心臓の活動を計測します。
一方、Apple Watchでは、電極は腕と指のみであるので、一部の心臓の活動を計測するにとどまります。つまりApple Watchでの計測はあくまでも簡易検査ということになります。ただし、簡易検査とは言え、電極は2つあれば電気信号を計測できるため、必要最低限の電極で心電図計測をする機器であると言えます。
Apple Watch Series 4、Series 5、Series 6 の心電図 App は、単極誘導 (または第 I 誘導) 心電図と似た心電図を生成します。医療機関では通常、標準的な十二誘導心電図がとられます。この十二誘導心電図は、心臓の電気信号をさまざまな角度から記録し、12 個の波形を生成します。Apple Watch の心電図 App は、これら 12 個の波形のうち 1 つと似た波形を記録します。単極誘導心電図からは、心拍数と鼓動のリズムに関する情報がわかり、心房細動の分類も可能です。ただし、単極誘導心電図は、心臓発作など、その他の症状の特定には使えません。単極誘導心電図は、基本的な心拍数や心拍リズムをより正確に把握できるよう、医師の指示に基づいて自宅や医療施設内で機器を装着するのが通常ですが、Apple Watch Series 4、Series 5、Series 6 の心電図 App は、医師の指示なしに、単極誘導心電図に似た心電図を生成できます。
Apple Watch の心電図 App と、同時に記録した標準的な十二誘導心電図を比較した研究では、心電図 App による洞調律や心房細動の結果 (分類) に、標準的な十二誘導心電図との一致が見られました。
心電図 App で記録した心電図が心房細動や洞調律という結果に分類された場合の精度を、約 600 人の被験者による臨床試験でテストした結果、これらの分類結果に関し、洞調律については特異度 99.6%、心房細動については感度 98.3% となりました。
臨床検査の結果には、制御された環境下での使用状況が反映されています。心電図 App を実際に使う場合には、判定不能や分類不能になる心電図の数が増える可能性があります。
出典:心電図Appのしくみ
Apple Watchでは時計の裏蓋にあるクリスタルとデジタルクラウンと呼ばれる竜頭(りゅうず)に電極が組み込まれており、この2つに触れることで回路が機能して、心臓を通る電気信号が記録される仕組みになっています。
まとめ
ウェアラブル機器では様々な技術やセンサーを使っています。これらの技術・センサーを組み合わせることにより、移動距離の計測、心拍数の計測、消費カロリーの計測、睡眠測定、血中濃度の計測が行われています。
様々なデータを組み合わせるというところがポイントであり、例えば睡眠測定では、加速度センサーで人の動きを捉え、PPGセンサーで心拍数を捉えることにより、睡眠の質を判定しています。
アメリカでは数年前から本格的にウェアラブル機器での健康管理が行われるようになっており、日本でも様々なデバイスが国からの認可を受けて心電図測定に利用され始めています。今後も様々なセンサーの開発が行われ、人々の健康維持に大きな影響を与えるであろうウェアラブル機器に注目です。
情シスフォース